町のにおい

町のにおい

町のにおいへの関心

  にはにおいがある。文学的に言う時もあるし、科学的な意味で言うこともある。を歩いているとゴミのにおい、魚を焼いているにおい等どこからともなく漂ってくることがある。

 しかしいずれも局所的なにおいで、町のにおいと言う全体的なというか、大げさかもしれないが社会学的というか、一般化されたにおいまでには至らなかった。僕が町のにおいというものに初めて関心を持ったのは上海に行ってからだ。

 僕が初めて土を踏んだ外国は中国の上海であった。本当は武漢に行く必要があり、直通便が無いことから、上海でひとまず宿泊することになったのである。

 当時中国はまだ竹のカーテンといわれた時代であり、招待状無しには入国できなかった。


 東京、六本木にある中国大使館に何回か足を運び、中国方の指示に従い、招待状をやっと手に入れ、入国可能となったのだった。

 僕はその頃東京に住んでいた一介のしがないサラリーマンで、4日の有給休暇をやっと認めてもらい、3連休と土日をくっ付けて計8泊9日の旅行をすることができた。

 上司は理解のある人だったが、それでも嫌味の1つや2つは言われるような状況であった。僕は自分の人生の節目になるであろうと直感的に感じていたので、何ら意に介さなかった。

 今思うと正にこれが人生の節目になり、実行して実に良かったと思う。新しい友人、新しい人脈、新しい人生の展開ができていったのである。

 もちろんこの展開はまったくの個人的なものであるし、個人の趣味や考えを会社に公開する必要性は無く、仕事とは無関係で、俺は俺、会社は会社であった。

 約20年前の1987年10月30日、今の上海虹橋国際空港に無事到着。何かしら空気のにおいが異なるような気がした。



 翌朝宿泊したホテルの窓を開けると、下の方から町の騒音、特に車のクラクションの他に、朝の食事の準備から出る一種独特のにおいがしたのである。

 朝食のにおいだ。あ〜、町が生きていると思った。このにおいは上海の下町や路地に行ったときのにおいと同じ系統のものであり、主として香菜系のにおいであった。僕は中国上海に来たことを改めて実感したのである。
 
 ところで東京の町のにおいは有るのだろうか。もちろん有るのだけれども上海に比べると、町としては無味無臭に近いのでは、という感じがする。

 日本人は純化するという優れた特徴があるが、ますます町も純化され、土がむき出しの道路も少なくなっていき、それにつれにおいも無くなってきたようである。

 昔、羽田空港に降り立った外国人がまず言ったことは、魚のにおいがする、であったそうだ。文化、いや経済が進化するとにおいも無くなり、町も無機質の無味無臭になっていくのであろうか。そう考えながら上海の息づかいが僕の性格に合っているように感じられた。
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